コラム

1人のマインドシフトが、社会のエネルギーシフトに波及する。「コミュニティの力」で持続可能なまちを共創する「相乗りくん」

 

気候変動の影響が身近になり、国際情勢で化石燃料価格が大きく変動し、再生可能エネルギーへの転換の必要性がこれまで以上に叫ばれる昨今。太陽光発電に関心を持つ人も増えているのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、2011年から太陽光発電普及事業の「相乗りくん」を運営しているNPO法人上田市民エネルギー代表の藤川まゆみさん。市民発の自然エネルギームーブメントとして、環境省大臣賞も受賞するなど全国的にも知られている「相乗りくん」ですが、2025年度には設置した太陽光パネルの合計がいわゆるメガソーラーに匹敵する約1000kWの発電量を突破したとのこと。「同じ1000kWでも企業主導ではなく、コミュニティ主導だからこその意義がある」と語る藤川さん。

お話を伺って見えたのは、太陽光発電の草の根的な普及にとどまらず、一人の意識や行動変容が連鎖的にコミュニティへと広がっていくという「相乗りくん」ならではの「コミュニティパワー」の力強さや、まちづくりの領域にまでその役割を広げている、上田市民エネルギーの現在でした。

 

太陽光発電に関心のある人たちをつなぐ「相乗りくん」の仕組み

 

——まず「相乗りくん」の仕組みから教えてもらえますか?

藤川さん(以下、敬称略):世の中には、太陽光発電に関心があるけれど、太陽光パネル設置の初期費用が負担になっていたり、集合住宅に住んでいるから太陽光パネルを設置できなかったりする人がいます。「相乗りくん」は、そうした人たちをつなぎながら、コミュニティの力によって低いハードルで太陽光発電に取り組むことができる仕組みです。

まず太陽光パネルを設置する屋根を提供する「屋根オーナー」と、太陽光発電に出資する「パネルオーナー」がいます。「屋根オーナー」は、自らの事業所や住宅などの空いている屋根に初期費用無しで太陽光パネルを設置することができるんです。発電開始後は「相乗りくん」に毎月設定した金額のお支払いをしていただきます。昼間は太陽光の電気を使えるので電力会社へ支払う電気代が減り、余った電気は売電して収入が得られるので、お支払いの負担は大きくありません。

 

——どうして初期費用がかからないのでしょうか?

太陽光パネル設置の初期費用がかからないのは、「パネルオーナー」の出資によってまかなわれているから。この「パネルオーナー」は、全国どこからでも参加できて10万円から出資できます。10年または13年の契約で売電収入を得ることができ、過去の実績ではほぼ見込み通りの成果を挙げています、集合住宅などに住んでいて太陽光パネルを設置したくてもできない人たちや、何か自分にできることはないかな?とアクションを探している方が「パネルオーナー」に申し込まれるケースが多いです。

——太陽光発電を設置したいが初期費用がネックになっている人と、自然エネルギーを増やすためなら出資したい人、それぞれが“相乗り”することによって太陽光発電を可能にする仕組みになっているんですね。

藤川:はい。現状(2025年3月現在)、83ヵ所に太陽光パネルを設置して、出資額は2億円を超えています。発電量は約1000kW(=1メガワット)。約350世帯分の年間使用量をまかなえる電力を生み出しています。

(相乗りくんの太陽光発電の詳しい説明動画はこちらから))

 

「あの人もやっているから」口コミで広がる屋根ソーラームーブメント

 

——みなさん、どのようなきっかけで「屋根オーナー」や「パネルオーナー」になるんですか?

藤川:口コミがほとんどですね。たとえば「屋根オーナー」の対象エリアは、メンテナンスの都合もあり、上田市街地からクルマで1時間半圏内。顔の見えやすいエリアだからこそ「あのお店(あの人)が始めたから、私もやってみる」というきっかけで参加してくれる人が多いんですよね。あとは、建物のエネルギー性能を重視している工務店さんが、太陽光パネルの設置も提案したいとなったときに施主さんに「相乗りくん」を紹介してくれたりとか。

「パネルオーナー」も、自然エネルギーやゼロカーボンの取組みに関心がある人同士の口コミが多いです。

また、エネルギーの地産地消をテーマにしたイベントを企画したときに参加者がこぞってパネルオーナーになってくれたこともありました。

上田市民エネルギー事務局からほど近い信州大学繊維学部でも藤川さんたちのビジョンに共感して、相乗りくんの仕組みを活用した太陽光発電所が設置されている。

この発電所を実現した仕組みや出資者を紹介している。

 

——派手なプロモーションではなく、草の根でじわじわ広がっているんですね。

藤川:参加してくれた方々にアンケートで「相乗りくん」に関心を持った理由を尋ねているんですが、「自然エネルギーで暮らしたいから」がずっとトップなんです。特に東日本大震災以降、自然エネルギーへの関心が高まっていて、「自分にも何かできるアクションはないか」と考える方が増えました。「相乗りくん」は、低いハードルで自然エネルギーのある暮らしづくりに加わることができる受け皿にもなっているんだと思います。

「屋根オーナー」は、初期費用無しで太陽光パネルを設置できて電気代も安くなる。「パネルオーナー」は、最初にお金を出資するだけで自然エネルギーを増やしつつ月々お金が入金されてくる。“寄付”ではなく、出したお金より少し増える“リターン”があることが大きいと思っています。

——自然エネルギーに関心がある中で「いきなりすごいことをしよう」と思わなくても大丈夫なんですね。「初期費用がかからない」「電気代が安くなる」「預けたお金が返ってくる」といった動機から始めるアクションでもいい、と。

藤川:そうですね。「パネルオーナー」も、最初は試しに10万円から出資してみて、リターンがしっかり得られることがわかったら次は30万円、最終的には100万円、と徐々に出資額を増やしていく方も多いです。

 

企業主導ではなく、草の根の市民主導で(分散型の)メガソーラーを実現する意味

 

——先ほど約350世帯分の年間使用量をまかなえる電力を生み出していると伺いました。メガソーラーをつくって発電するのと、「相乗りくん」のようなコミュニティで発電するのとでは、どのような違いがあるのでしょうか?

藤川:社会への波及効果が違うと思います。「相乗りくん」は、私たち地域に根ざしたNPOによって、気候変動を止めたいという人同士のつながりを生み出し、経済的にも、社会的にも、多くの人が価値と成果を享受できる「コミュニティパワー」の実践という側面もあります。

地域外の事業者がメガソーラーを建設する場合は、利益は地域外に流れるし、ノウハウが地域に残りません。地域にとってのメリットは少ないかもしれません。

 

——「外部の大きな団体」ではなく、「地域の小さな一人ひとりの集積」だからこそ意味がありそうですね。

藤川:そうですね。私たちだけではできる範囲に限界があって。「相乗りくん」に参加している一人ひとりから横にいる人に、アクションがじわじわ伝播していくのが理想です。きっと「屋根オーナー」も、太陽光パネルを設置したことで、それまでと気持ちが変わると思うんです。環境負荷の少ない暮らしを実践できるようになったことで気持ちよさを感じたり、 「自分にもできることがあったんだ」ってエンパワーメントされたり。すると、気候変動や脱炭素などのトピックにも関心が湧いて、また新たなアクションにつながることもある。

実際に自然エネルギーを生み出していることに参加している実感を持ってもらうために、「パネルオーナー」には毎月「今月あなたのパネルは、何kWhを発電しました」というレポートを送っているんです。そうすることで、単に「自然エネルギーに出資した」だけでなく「自然エネルギーへの転換にどれだけ貢献しているか」という手応えを得ることができる。

——そこまでアフターサポートをされているのですね!

そうすることで、例えば「なにかしないといけないけど、なにをしたらよいかわからない」と感じていた人が「パネルオーナー」になることで「自分にもできることがあったんだ」と実感されたり、「次のアクションを始めました!」とご報告をいただくこともあります。「相乗りくん」に参加する小さな一歩が、また新たな一歩を導いてくれるんです。

——誰かの意識や行動の変容が、他の誰かの変容にも波及していく。再エネの規模だけでは捉えきれない本質的な価値が「相乗りくん」にはあるのですね。

藤川:エネルギーシフトや気候変動対策にはメガソーラーの規模で自然エネルギーを増やすことも必要で、それが地域外の発電事業者の場合もあると思います。、でも地域が主導する「相乗りくん」だと、合計約400人の「屋根オーナー」「パネルオーナー」の内面に変化をもたらすことができる。400人への変化と、その周辺にいる人々や地域への影響を考えると、社会に大きく、持続的なインパクトをもたらすことができると考えています。

地域にある程度太陽光パネルの設置が増えたら「わが家だけ設置していない」という力学が働いて、加速度的に普及していくと予想しています。早くそこまで辿り着けるように頑張っていきたいと思います。

屋根ソーラーからまちづくりへ。
本質は環境意識の高い市民コミュニティを紡ぐこと

 

——今後の「相乗りくん」の展望について教えてください。

藤川:喫緊で言えば、「屋根オーナー」を増やすという目標はあります。でも、やりたいことの本質は、太陽光パネルを設置することだけではありません。というのも、「相乗りくん」がエネルギーシフトの全てを担えるわけではないんです。「相乗りくん」を使わなくても太陽光パネルを設置できる人がいたらどんどん設置してほしいし、太陽光発電以外にも地球や地域にとって必要なアクションを起こせるのならば一緒に進めたい。

「相乗りくん」は、エネルギーシフトを起こしつつ、関わる人たちのマインドシフトを起こすところに大きな存在意義があるんだと思います。

——マインドシフトを起こす。

藤川:「相乗りくん」に参加している知人を見て気になったり、「電気代が安くなる」「出資した額以上のお金が返ってくる」ということが気になったりして、気軽に「相乗りくん」に参加する。そのうちに「自分にもできることがあったんだ」「なんだか気持ちがいい」「もっと取り組んでみよう」とワクワクしながら意識が変わっていく。そうしたマインドの転換を自然と体感できることが、「相乗りくん」の最も大きな成果かもしれません。

藤川:それに本当にエネルギーシフトするなら、もっと社会全体のマインドシフトを進め、アクション自体もスピードアップしないといけません。私たちも「相乗りくん」でノウハウを身につけたし、事業運営のレベルも上がってきた。今は新たな活動にもどんどん展開しているところ。今は、「相乗りくん」に限らず、持続可能なまちづくりのための取り組みを進めています。

——“「相乗りくん」に限らない持続可能なまちづくりの取り組み”とは、どんなことでしょう?

藤川:たとえば、2021年からスタートした「上田リバース会議」は、その一環。これは、各分野の第一人者をゲストに呼んで、持続可能なまちづくりに関するテーマを取り上げて、市民起点で地域の痛い現実や課題解決について考える場です。これまで、行政、事業者、金融機関、研究者、学生など、いろんな立場の人たちが垣根を越えて対話してきました。この「リバース」という言葉には、深刻化しつつある地域課題を解決の方向に逆転(リバース・Reverse)させること、そして、まちを再生(リバース・Rebirth)させていくこと、といった意味が込められています。

——行政起点ではなく、市民起点で考えることで、どんな変化が生まれるのでしょう?

藤川:たとえば、行政は「環境に優しい地域をつくろう」「コンパクトシティ化を進めよう」といったように未来を明るくするようなメッセージを発信することが多いけれども、実際には施策を進めるのは簡単ではなく、人口減少も進み、公共交通も縮小傾向にあります。「現状、地域はかなり窮地に立たされている」「このままいくと本当はまずい」とネガティブなメッセージを発信することはなかなか難しいと聞きました。でも、市民であれば、誰にも遠慮することなく、率直かつ自由に危機感を表明することができます。

実際に行政の各課の方々から、「私たちが言いたかったことを言ってくれてよかった」と言っていただくことが多いです。

——市民が行政を巻き込んでいく。

藤川:はい。でも、行政ではできないことがあるのと同様に、市民だけでもできないことだらけです。大切なのは、いろいろな立場の人が強みを持ち寄って一緒に取り組むこと。「上田リバース会議」で扱った「交通まちづくり」への共感が後押しとなり、上田市が環境省の脱炭素先行地域に選定されました。上田市内のローカル線である別所線沿線に太陽光発電を増やして別所線とエリア内をゼロカーボンにし、別所線の利用促進も進めるというプロジェクトです。

——危機感を共有するだけでなく、解決策も考えていくんですね。たしかに公共交通は、市民だけではアプローチできない領域でもあります。

藤川:脱炭素の面からも、持続可能なまちづくりの面からも、いかに公共交通の利用者を増やしていくかは大切なトピック。一方で、「いかに自家用車から公共交通へシフトできるのか」は大きなハードルです。そこで、「上田リバース会議」では、公共交通と健康の関係や交通事故のリスクをデータで提示したり、8ミリ映像で地域の鉄道の歴史や価値を実感してもらったり。マインドシフトを起こすための取り組みを地道に進めています。今後も沿線の方にアンケートを取りながら、意識や行動にどのような変容が生まれたのかを確認しつつ、改善を繰り返していきます。

別所線は2025年3月に平日の増便を決意してくれました。市民の私たちもその気概に応えたくて、同年12月には別所線の5,500円分の回数券を1,000円で販売する「別所線エコチケ」プロジェクトを実施し、確実に一定の方の行動変容が起きたことが確認できました。今も分析を進めています。

——公共交通の利用促進を行政や交通事業者だけが取り組むのではなく、市民の側に立つ上田市民エネルギーが利用者との間に立って呼びかけることで、より市民に届くメッセージになりそうです。

藤川:これらのアクションを続けるなかで、行政のみなさんとの連携も深まってきました。上田市のまちなかエリアビジョンを行政と一緒に作成したり、県との協働で教室の断熱ワークショップの輪を広げたり。ますます取り組みが発展しています。

これからも市民も、行政も、タッグを組んで、まちづくりやゼロカーボンの地域のマインドとアクションを転換していけたらと思います。

編集後記:

気候変動のような地球規模の大きな問題に対して社会規模での価値観の変容を促していく方法論として、「トランジションデザイン」という概念がアメリカのカーネギーメロン大学で提唱されたのは、2012年。くしくも、相乗りくんが始まった翌年でした。

太陽光発電の普及啓発ムーブメントにとどまらず、意識や行動変容を促していくコミュニティ形成を目指す相乗りくんは、まさにトランジションデザイン的なアプローチであり、長野はもちろん日本をも代表するようなモデルに育っているのではないでしょうか。

大きな問題であっても、変化は小さくしか起こせません。けれど、顔が見えるコミュニティの中だからこそ、ゆっくりと確実に変わっていく実感が得られる。成功体験も、失敗経験もコミュニティの中で知恵として共有・蓄積されていき、影響を及ぼす範囲も広がっていく。そんなコミュニティの力をインタビューからひしひしと感じました。

2024年には、環境省で働いていた20代の方も上田市民エネルギーに大きな可能性を感じ、転職されたと聞きました。上田エリアから始まったうねりは、着実に県内外に広がりを見せていました。

ライター:小林拓水(toishi)
編集・撮影:くらしふと信州 コーディネーター 北埜航太(※取材当時)



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