コワーキングスペースといえば、仕事をするために借りる共用の場所を思い浮かべますが、それだけにとどまらない取り組みをしている施設があります。長野県富士見町にあるコワーキングスペース「富士見 森のオフィス」です。
森のオフィスでは「GREEN COMMUNITY」と題して、ゼロ・ウェイストや自然エネルギーの導入など働く場所のサステナブル化、ノウハウの共有を図るコミュニティを創るべく活動しています。
なぜオフィスで自然環境を意識した活動をするのか? 「GREEN COMMUNITY」とは具体的にどんな取り組みなのか?
森のオフィスでサステナビリティを推進する松田裕多さんにお話を聞いてきました。
【プロフィール】
富士見 森のオフィス 松田裕多(まつだ・ゆうた)さん:
2016年に長野県富士見町に移住し、地域おこし協力隊に着任。3年間の任期満了後、デザイン会社「マツダショウジデザイン合同会社」を設立し、デザイナーとして活動しながら「富士見 森のオフィス」のクリエイティブディレクターを兼務している。
メルボルンで受けた感銘を富士見町に持ち帰る
−−森のオフィスでは「GREEN COMMUNITY」と題したサステナビリティの推進に取り組まれていると伺いました。どのようなきっかけで始まったプロジェクトなのですか?
松田:きっかけは、僕が旅行で訪れたオーストラリアのメルボルンでの体験です。例えば、マーケットへ行く人がみんなエコバックを持っていたり、スーパーは量り売りだったり。それが当たり前に暮らしに浸透している様子を見て感銘を受けました。一方で、日本に帰国したら当時はレジ袋もまだ無料でしたし、かなりギャップを感じたんです。
そこから、自分がスタッフをしている森のオフィスでも、なにかできることはないかと考えるようになり、2020年に「GREEN COMMUNITY」と題した取り組みを始めました。
−−「GREEN COMMUNITY」プロジェクトは、どんなことから始めたんですか?
環境問題は問いが大きすぎて、なにから始めたらよいか分かりませんでした。なので、知人がいる一般社団法人Earth Companyという団体の、ゼロカーボンを目指す実践プログラム「Operation Green」というプログラムに参加し、スタートしました。
彼らは国内外でサステナブルアクションを広めており、知見が多くアドバイスも適切なんです。
具体的にまず始めたのがペットボトルの削減と、軽食の量り売りです。
以前はネットで仕入れたペットボトル飲料を施設内で販売していましたが、それをやめて地域の商店街の酒屋さんから瓶の飲料を卸してもらうようにしました。飲み終わった瓶 は、酒屋さんが回収してリサイクルに回してくれています。なので、今の森のオフィスにはペットボトル用のゴミ箱はありません。
ネットで仕入れていた頃よりお金も手間もかかりますが、地域のお店と連携してモノとお金を循環させていくことで、より富士見町に根差した場所になってきていると思います。
軽食は個包装での販売をやめて、まとめて購入したものをキャニスターに充填し、用意した容器やお皿に好きな量を取ってもらう形にしました。
目の前に守りたい自然があるから、「できることからやってみよう」と思える
−−そういった取り組みに対して、会員さんからの反応はどうでしたか?
皆さんとても共感して協力してくださっています。
森のオフィス程度の規模で量り売りやペットボトル飲料の販売をやめても、正直インパクトは少ないかもしれません。ですが、「なぜそうするのか?」ということを会員さんに伝えること自体が、環境について考えてもらうきっかけになると考えています。
スタッフも会員さんも、森のオフィスに関わる人の環境意識はもともと高いんです。「森のオフィス」というだけあって緑に囲まれているし、みんなこの自然環境に魅力を感じている。目の前に守りたい自然があるから、「できることからやってみよう」と足並みを揃えられているのだと思います。
−−たしかに、この場所にいたら環境保全についての関心は自然と高まっていきそうです。でも、環境に良いものを選ぶことでかかるコストについてはどのように乗り切っているんでしょうか?
おっしゃるように、販売する飲料を瓶に変えたことでコストがかかるようになりましたし、容器を洗う回数が増えれば洗剤も水も使う機会が増えます。そこを仕組みで解決できないかと考えて導入したのが「エコチャージ」です。
いわゆる環境税のようなもので、新規会員登録や宿泊の際に数百円を追加でいただく形になってしまうのですが、会員さん達のご協力があってなんとか乗り切れています。
森のオフィスから、地域、県外へ。
サステナブルアクションを循環させていく
−−最近ではお店や商業施設でもエコな取り組みが増えてきたように思います。そんななかで、「コワーキングスペース」で環境に配慮した取り組みをする意義はどこにあると思いますか?
コワーキングスペースって、多様なバックグラウンドを持った人が集まる場所ですよね。森のオフィスでエコな取り組みをやることによって、皆さんが自宅や会社に戻って真似してくれるようになる。そうやって僕らの活動が外に広がっていくといいなと。
森のオフィスでの活動を「GREEN COMMUNITY」と題しているのも、自分たちだけで完結するのでなく、地域や外の人とも繋がって取り組みが循環していくことを目指しているからです。
−−実際に会員さんから意識が変わったという声などはありますか?
会員さんにアンケート調査を行ったところ、実際に家に帰った後のアクションに繋がった方が半数ほどいらっしゃいました。ゴミの分別を徹底できるようになった、などの声があってすごく良かったです。
−−フェーズが進んだ現在はどんな取り組みをされていますか?
今はオフィス向けのゼロ・ウェイスト認証*を取得し、ゴミの発生の抑制と資源の再利用に力を入れています。
日々使う掃除用品なども、エコな洗剤を買ったとしても使い終わればゴミが出てしまいますよね。そこで廃油から石鹸を作るプロジェクトも発足しました。地元の飲食店から廃油を回収して、地域の方も巻き込んだワークショップ形式で石鹸を作り、洗い物に使うのはもちろん、オフィスでの販売もしています。
また、最近だと食器を洗うスポンジもゴミになってしまうからと、ヘチマスポンジを作るべく、ヘチマを育てています。
*…一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンと富士見 森のオフィスが共同で策定した、コワーキングスペース/オフィス事業者のゴミゼロを目指す取り組みを評価する認証制度
−−スポンジまで!すごい。
正直、施設内の清掃を廃油石鹸やヘチマスポンジだけで運営しようとすると、かなり生産量が必要なのでなかなか難しいのですが、みんなで作る楽しみも織り交ぜながらやっていくのが大事だと思っています。
毎日みんなでオフィスの庭を見ながら「あのヘチマもうスポンジになるかな?」なんて言いながらやるのは楽しいですよ。他にも、富士見町で採れる渋柿を集めて干し柿や柿酢を作ったりもしています。これらはすべて、森のオフィスのスタッフのみんなが、アイデアを出しあってアクションに繋げてきたほんの一例です。
−−廃油石鹸や渋柿など、本来は捨てられてしまうものからおもしろい取り組みができるっていいですね。
もうエコな洗剤を買うだけじゃ、満足できなくなってきてますね(笑)。「今あるもの」を使って応用すれば経費も抑えられますし、再利用する過程で関わる人の環境への意識が切り替わっていくという良さもあります。
−−廃油を回収する先の飲食店の方も、柿の木を持っている方も地域の方々ですよね。
オフィスにいるだけだとやれることは限られていて、地域の人を巻き込んだほうが、僕らの取り組みを知ってもらうきっかけにもなります。地域の事業者さんや町民の方々の協力で「GREEN COMMUNITY」は成り立っていて、オフィスを持続可能なものにしていく中で地域との関係も深まっていくという循環ができたらいいと思っています。
−−法人向けにオフィスでのサステナビリティ活動の研修もしていると伺いました。
はい。僕らの取り組みを他のオフィスにも広めたくて、研修を始めました。僕らのやり方をそのまま教えるのではなく、考え方を伝えたり、それぞれの場所でどんな取り組みができるか一緒にブレストすることを大切にしています。
先日、渋谷駅前の高層ビル内でコワーキングスペースを運営されている方が受講してくれて、彼らもゼロ・ウェイスト認証を取りました。
−−「GREEN COMMUNITY」が富士見町から県外にも広がっていくのですね。
研修は僕らも勉強になるんです。都心のコワーキングスペースと森のオフィスでは会員さんの考え方も全く異なっています。都心では「場所やサービスを提供してもらう場所」と捉えられがちなのに対し、森のオフィスは「みんなで働いてみんなで作っていく」という雰囲気。後者のほうが一緒にサステナブルな環境を作っていきやすいという気づきもありました。
−−富士見町にあるからこそできる持続可能なコミュニティ運営の形ですね。今後に向けてやっていきたいことはありますか?
Earth Companyのカーボンダッシュボードというサービスによって、エネルギー・水道・廃棄物など、各項目ごとに森のオフィスがどれくらいCO2を排出してるのか可視化できるのですが、やはりエネルギーの割合が大きくて。
足元からできる取り組みとして、ゴミの分別や節水というのはスタッフや会員さんの意識を高めていく上での価値はすごく高い。ですが、本質的に環境に与えるインパクトを考えると、やはり「エネルギーの転換」は必須だと思っています。いつか100%再生可能エネルギーでオフィス運営ができたらいいですね。
富士見 森のオフィス
Profile
撮影:丸田 平
くらしふと信州は、個人・団体、教育機関、企業、行政など多様な主体が分野や世代を超えて学び合い、情報や課題を共有し、プロジェクトを共創する場です。
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